生涯学習(生涯教育

生涯教育の理念は、1960年代に入り、一般的な家庭教育や学校教育だけでは不充分だといわれはじめていた中、1965年にパリのユネスコ本部の成人教育国際委員会に於いて、ポール・ラングランが提唱した「生涯教育」と題する報告書をはじめとするのが定説だ。
 フランス語で「l’education permanante」、英語で「lifelong integrated education」と表記されたこれらの日本語訳を「生涯教育」としたものだが、フランス語には教育に“永続的”という意味が加えられ、英語には“生涯の統合的な”という意味が加わっている。
 この訳語にも示されているとおり、ラングランは教育には「時間的統合」と「空間的統合」が特に重要だとしている。時間的には人生の各段階においてふさわしい教育が必要だといい、空間的には家庭や学校だけでなく社会全体での教育が必要だと説くのである。
 ラングランが提唱した生涯教育の目標は、人間の一生を通じて、教育(学習)の機会を公平に提供するなど、従来の教育についての考え方を根本的に改め、教育を本来の姿に戻すためにあったと言われている。つまり生涯教育とは、生まれてから死ぬまでの生涯の各時期における教育を関連づける垂直統合(時間的統合)と、あらゆる教育的機関を関連づける水平統合(空間的統合)を包含する理念なのである。

20世紀後半にはいると、科学技術の進歩により世界的な社会変化が起こってきた。労働時間の短縮による余暇時間の増大。生きがいや自己実現への欲求の高まり。経済的にゆたかになり、心の豊かさも大切にしたいとする傾向等々。生涯学習の必要性が求められる背景には、このような人々の価値観の多様化が挙げられよう。
 経済活動が高度化すると、最新の技術や学問・知識を次々と習得することが求められてくる。
 このような現代的課題に応えるためには、これまでの学校教育で学んだ知識や技術では対応が困難となってくる。そのため絶えず新しく生み出される技術や知識・教養・を生涯にわたり学んでいく必要があるという訳だ。

 簡単に言えば、「生涯にわたって学習活動を続けるべきだとする教育のこと」が生涯教育だと理解できるが、大切なのは他人から強制ではなく、自分からの能動的な意欲による学習活動でなければならないと言えるだろう。
 1960年代当時、「生涯教育」と言われ広められたこの言葉は、近年では「生涯学習」という言い方が一般だともいう。

さてここで生涯教育の歴史的変遷の概観を述べる。

東洋の古典的な生涯教育には、儒学(孔子)の論語がある。ここでは生涯を通して、論語に基づいた自己練磨・自己形成が求められている。
 古代西洋では、アリストテレスが「対話によって善の知識を身に付けよ。これは生涯の人の使命である」という意味のことを言っている。
 近代に入ると、1919年、英国で復興省から生涯教育の必要性を示した報告書が出された。
 1965年には既に述べたラングランの報告書がある。ラングラン以降では、1968年のハッチンスの「学習社会」論。続いて1971年の「フォール報告」では、その目的として「完全な人間」ということが説かれている。

一方日本では、1990年には「生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律」が制定され、各自治体でも生涯教育(生涯学習)が、今後の大きな課題になるとして取り組まれ始めている。

以 上  

参考文献:『生涯教育入門(改訂版)』ポール・ラングラン著/波多野完治訳
『生涯学習の理論』宮坂広作著ほか